行けたんだ! カナダ!!

~三十路兄ちゃんのカナダ生活日記~

アメリカ大陸上陸(1) 

 窓の外に目をやると、とうとうアメリカ大陸がはっきりと見えてきた。はるばる東京から十二時間、カナダの経済の中心トロントだ。

「ついに来た!!」

 僕の胸は興奮と不安ではち切れんばかりになっていた。

 そしてついにトロント国際空港(レスター・B・ピアソン国際空港)に着陸の瞬間がやって来た。記念すべき瞬間である。

 窓側に座っていた僕は、目を凝らして地上を見つめていた。

 海外で暮らしたいという子供の頃からの夢が、今まさにこれから始まるのだ。

「カナダでがんばるぞー!」と自分に活を入れ、飛行機がアメリカ大陸に着く時を待った。

 

 その僕にとって一生で何度と無い大事な時にである、隣に座っていた日本人の良く喋るおばちゃんが、話しかけてきた(トロントに単身赴任でいる旦那さんに会いに来たそうだ)。

「そう言えばね~、うちのお父さんが言ってたけど、トロントの人は自分たちの街を ”トロント” じゃなくて ”トロノ” って言うんだって。あなたも ”トロノ” って言えば観光客には見られないわよ~!」

 

 機内での十二時間おばちゃんは、あれやこれやと良く僕に向かって話しをしていた。

 時間の経過とともに国際線の緊張がほぐれ、読む本にも飽きて退屈になっていた僕もそのおばちゃんの話には割りと付き合っていた。

 だから ”トロノ” の話しも着陸の時だったけど、人の良い僕は「へえ~、そうなんだ~」と相づちを打って話してしまった。

 でも人の良いのにも程がある事を、その時思い知らされてしまった。

 機関銃のように話すおばちゃんと話しているうちに、飛行機のタイヤがアメリカ大陸に接触する瞬間を逃してしまったのである!!

 そんなこんなで僕のカナダ生活の第一歩、記念すべきアメリカ大陸上陸の瞬間をこの目に焼き付ける事は、その ”トロノおばちゃん” のせいで無残にも打ちくだかれてしまった!!