アメリカ大陸上陸(2)
五年ぶり二度目の外国、初めてのカナダ、とうとう来てしまった。
第一関門の悪名高き異国での洗礼 ”税関” では予想通り? 何を言っているのか良く解らない事もあったけど(というかほとんど解らなかったかな~)、まあ何とか無事通過した。
到着ロビーに出ると、外国の匂いがした。
カナダはフランス語も話されていると聞いていた通り案内の表記は英語とフランス語の両方が書かれている(ケベック州だけはフランス語が第一公用語で英語が第二公用語といった感じ。他の州は逆で英語の次にフランス語なんだけど、公の看板や商品の説明書はほとんど両語表記である)。
空港内はもちろん外国人ばっかり、外に停まっている車は外車、犬までもが英語を話せそうだ。
白人のおじさんが僕の名前を書いたボードを持って立っていた。僕は直ぐにその人に気付き、近づいて行った。
「はじめまして、それは僕です」
「ようこそカナダへ、後でちょっと待っててくれないか」
おじさんは素っ気なくそう言い、また誰かを探していた。彼は英語学校の人らしく、また違う名前のボードを持って立っていた。
四人の日本男児が集まったところで彼は「さあ、行くぞ!」と言い、僕達は彼の車に乗った。どうやら一人ひとりホームステイ先に連れてってくれるらしい。
他の三人はどう見ても僕より若い、二十代前半だ。端正な顔立ちと服装。僕はと言えば、お世辞にも端正とは言えないいかにもアジア人のノベ~っとした顔と、ジーパンにウインドブレーカーのダサい格好。おまけに三十路直前ときてる。
カナダに来るのは、彼等のような若い人が多いのだろうか?
自分では余裕で若いつもりなんだけど、正直この歳でこんな事やってて良いのだろうか......。
今まさに始まったばかりのカナダ生活なのに、そんな事を考えてしまった。
僕達四人はお互い日本人で、言葉は通じる筈なんだけど、長旅の疲れや異国の地での緊張、それにもちろん白人のおじさん含めて全員初対面だという状況で、車内は沈黙の嵐。
おじさんも最初一言二言僕達に声をかけていたが、英語が良くわからないのか、ただ相づちを打つだけの愛想の無い日本人に諦めて携帯電話をかけだした。
もしも僕が英語話せたら、白人のおじさんも巻き込んでワイワイガヤガヤ楽しいドライブに出来るのになあ~! と思った。けど、たどたどしい英語でも僕は話すべきだった。
一番年上だし~。
でも結局僕も他のみんなと同じで、日本人がいる中で下手な英語を話す事が恥ずかしくて出来なかった(ホント日本人の悪い所だよねー)。
車は一軒一軒それぞれのホームステイ先を回った。普通のカナディアンの一軒家だ。思っていたよりもそんなに大きな家ばかりじゃなかった。
一人ひとり降りて行き、残すは僕の家だけとなった。僕は一体どんな家なんだろうとワクワクドキドキしていると、車は三十階はあるだろう高級高層マンションに近付いて行く。
そして守衛所を通り大きな二棟の建物が建っている広い敷地内に入って行った。
「もしかして、ここが僕の家?」恐る恐る彼に聞いた。
「イエ~ス!お前はラッキーだな」
彼は入口で何かのボタンを押し、僕をエレベーターの前まで連れて行ってくれた。
「部屋番号は1505番。それじゃな!」そう言って彼は帰って行った。
「ヒエー、マジかよ!!」
目が丸くなった。こんな立派なマンションが僕のステイ先だなんて、何かの間違いじゃないのか?
ロビーは高級ホテルの様だった。日本で住んでいた45000円の安賃貸マンションのオンボロ自転車が並ぶロビーとは大違いだ。
ビビりながらエレベーターに乗り1505号室に行きチャイムを鳴らした。中からはすごく優しそうな顔をした白人の大きなおじさんが出てきた。
「はじめまして!」
「よく来たね~、長旅で疲れただろう、まあとにかく入りな」と僕の荷物を持ってくれた。直ぐに奥さんも僕の後ろから来て、
「今、下まで迎えに行ったのよ。行き違いだったわね」というような事(たぶん)を言って家の中に入って来た。
そして彼女は大きな声で、”ウェルカム トゥー カナダ!!” と言い僕を広いリビングに招いてくれた。
こんなにも暖かい歓迎を受けて、僕のカナダライフはスタートした。