行けたんだニューヨーク(3)
次の日の目的は、ミュージカルを見る事だった。とは言っても有名なブロードウェイではなく、オフ・ブロードウェイでやっている "Blue Man Group...Tubes" だ。
このミュージカル(というかショーかな)は、全身青一色に塗った三人の男達が、言葉を一言も発せず、いろいろなパフォーマンスを繰り広げるという物だ。
前回ニューヨークに来た時いろいろなミュージカルを見たが、僕が一番印象に残っていたのがこれだった。今度来る事があったら、絶対また見ようと心に誓ったものだ。
このショーはその当時でもう十年近くロングランで、ニューヨーカーの間でもかなり人気のあるショーだ。
当日では、なかなか難しいかなと思ったが、直接電話で劇場に聞いてみた。僕のこの英語力で、しかもここニューヨークで通じるかな?と不安に思ったが、何とかなり(虎の巻を見ながらだったけど)、チケットを手に入れる事が出来た。
やっぱり人間本当に欲しい物がある時は、火事場の馬鹿力が働き、なんとかなるもんである。やれば出来るじゃん!
会場は満席でこのショーの人気をうかがわせる。内容は前回とほとんど同じだったが、何回見ても楽しく、おかしく、ちょっぴり怖い。
でも何が何と言っても一番おかしかったのが、何とMちゃんがブルーマンに連れて行かれた事である。
何も知らない彼女は、ホント泣きそうな顔をしていた。悪いとは思ったが知っている僕は大爆笑。
これ以上説明すると、アスタープレースシアターの人に営業妨害で訴えられるので、やめよう!?
もしニューヨークへ行く人がいたら、このショーは是非見てもらいたい。良くも悪くも一生忘れられないミュージカルになる事間違いなし。僕もまたニューヨークへ行く事があれば必ず見ようと思っている。
その後街をうろうろ歩き、ジャズライブを一つ見て、昨日行った店にまた行った。
カウンターの中にいるTシャツにジーンズ、モデルの様に目鼻立ちのはっきりした、かっこいいアメリカン姉ちゃんバーテンダーモニカは、僕の事を覚えていてくれて、
「ハイ! 今日も来たのね~」と笑顔を振りまいてくれた。内心、たぶん僕より年下なんだろうなあ、とちょっと落ち込みつつ僕も「ハイ!」と愛想を振りまいた。
その日はライブをやって無く、昨日とは打って変わって静かなバーに変身していた。
隣に座っていた白人の男が話しかけてきた。この店はフレンドリーな客が多い。いい店だ。
「どこから来たの?」
「カナダから来たんだけど、カナダも日本から来たばっかりなんだ」
「ニューヨークは好きかい?」「大好きです!」(冒頭は、いつも同じ)
その後もニューヨークの話、音楽の話、いろいろな話で盛り上がった。
僕は自分でも信じられない程英語を話していた。酒が入ると脳味噌の回路が、英語に切り替わるのかなあ?
彼はニューヨークでサウンドエンジニアをしていて、なんと、初対面の僕に今度また来た時は連絡しなと、電話番号とメールアドレスを教えてくれた。おまけに最後ビールまでおごってもらって。感謝感激だ!
なんか昼間は殺伐とした人が多かったが、夜はいい人達と出会えたなあ。
やっぱりニューヨークは最高だ。I Love NY !!
でもトロントに帰ってから友達にこの人の事を話したら、「それゲイじゃないの?」とあっさり言われてしまった。実際はどうなんでしょう?
ホテルの部屋はツインなのに、四人で泊まるというせこい部屋割りだった。
僕とブラジル人、メキシコ人、ドイツ人だった。三人とも二十歳そこそこという感じだったが、話しを聞くと学校でのレベルは7,8,9。僕はレベル1。
ベット二つに、もう一つ簡易ベット、そしてあと一人は床に寝なければならない。
僕は毎晩飲みに行って遅く帰って来ていたので、三人の勝手な話し合いにより、僕は床に寝るはめになってしまっていた。
朝起きると三人はコソコソと話しをしている。薄目を開けて聞いていると、
「変なアジア人だよな、英語全然喋れないくせに、遅くまで酒飲みに行って。多分あいつはアル中だよな!」
「いびき、うるさかったよなあ、面白い顔してるから写真撮っちゃえ!」と、眠っている僕にシャッターを切ってケラケラ笑っている。
本当に悔しかった。でも英語で何て言い返していいか分からなく、何も言えなかった。情けなかった。
僕は、眠ってて何も知らなかったという様な振りをして、ムクムクと起き上がり、
「モーニン」と言って、さっさとシャワーを浴び部屋を出た。
その時は、本当に情けなかった。
楽しかったニューヨーク、大好きなニューヨークで、何でカナダの英語学校に来ている田舎者のブラジル人に馬鹿にされなければいけないのか?
日本人だから?アジア人だから?英語が喋れないから?本当に悔しかった。
部屋を出て直ぐ、知っていた韓国人がいた。そんな後だったから僕はアジア人同士親しみを感じまくって、満面の笑顔で、「Hi, How are you ?」とハグ寸前で挨拶してしまった。
出発までに時間があったので、ロビーでコーヒーを飲んでいた。そこにあの小さな巨人ブライアンがやって来た。
今回のニューヨーク旅行、最初は300ドル安いと思ったが、食事は何一つ付いてないし部屋は最悪だし、ちょっと文句を言おうと思い、ブライアンに言った。
すると彼にしてみれば解り易い英語で、いろいろと学校の事情などを説明してくれた(と思う!)。でも、僕にはほとんど理解出来ず、いいだけブライアンが喋った後で、
「I don't understand !」と元気に言った。
彼は一瞬「エッ!?」という顔をし、君はレベル何?と聞いてきた。
ニッコリ僕は「I'm Level 1 !!」
ブライアンは、「Oh my God !!」と言って頭を抱えていた。そこまで言わなくてもいいだろうと思ったが、生 ”オーマイガー” を初めて聞けたので、まあいいや。と訳のわからん解釈を自分で勝手にして、席を立った(そんな脳天気な僕である!)。
バスはニューヨークを後にし、一路トロントに向けて出発した。