行けたんだ! カナダ!!

~三十路兄ちゃんのカナダ生活日記~

カナダを走るイエローキャブ

 英語学校のクラスは、相当出来が悪くない限り、ひと月ごとに上のレベルに進級して行くシステムである。つまり理論上は一年近くいれば、一番上のレベル10まで進む事が出来る訳だ。

 出来る事なら僕もその学校でそのくらい勉強し、ペラペラと英語を使いこなせる様になりたかったんだけど、親が学費を全部払い、日本から毎月仕送りをしてもらっている様な金持ちのボンボン息子でもないし、エリートサラリーマンで、ウン百万の貯金を持って来た訳でもないので、僕は二か月間だけしか英語学校に行く事が出来なかった。

 僕はガキの頃から海外で住みたいという夢を常に思って生きて来た。大人になってからもそうだった。

 しかし実際は毎日の生活に流され、こんな僕でも将来の事なども考えだし、知らず知らずのうちに歳はとり、気付けば三十路手前。でも、

「まだ、間に合うよな。夢を夢で終わらせたくないよ~!」と思うのだが、結局最後はいつも、お金の問題でなかなか実行に移す事が出来なかった。 

 夢を叶えるのには現実問題として、やっぱりお金が必要なのである。

 貯金もほとんどない僕は、年齢の事もあるし、

「行くのは今しかないな、この機会を逃したら一生行けないかも知れない!」と自分に言い聞かせ、運送関係の仕事や、自動車工場で働き、少しばかりのお金を作りカナダにやって来た。

 まあ、辛い事は直ぐ忘れるいい?性格なので、とてつもなく苦労してお金を貯めてやって来た!という程の思いは自分では自覚しないけど、外国に住もうと思って来た割には、実際それでも足りなかったなあ。

 

 二か月目クラスのみんなは、順調にレベル2に進級した。しかしなぜか僕だけが飛び級してレベル3に行くことになった。

 一番最初のテストでレベル3になったけど、きつくてレベル1に落としてもらった。その時の記憶があったので、先生にまた言った。

「なぜ僕だけがレベル3なんですか?僕もレベル2でいいです!」(正直きついというだけじゃなく、みんなと同じクラスに行きたいと思ってたんだよねえ~)

「君なら大丈夫だ!レベル3でがんばりなさい」

 多分、ペーパーテストの結果が良かったのだろう(でも、テストと喋るのは違うからね)。

 先生は今回は望みを聞いてくれず、僕はしぶしぶレベル3に行く事になった。結果は新しい友達も出来たし、まあ良かったんだけど。

 

 そう言えばこの頃、カナダに来て初の映画を日本人の友達Tと見に行った。それは忘れもしない スターウォーズ~エピソード1”

 彼は僕より前にカナダに来てて、既に何回か映画を見に行っていた。

 映画館に着いてから、お決まりのポップコーンとコーラを買った。でも噂通り、これがデカイの何のって。

 コーラのLサイズは大ジョッキよりデカそう。ポップコーンのLサイズはもうバケツだ!

 でも僕はせっかくだからと思い、やめた方がいいと言うTの助言にも従わずLサイズのコーラを買って館内に持って行った。

 本編が始まる前、他の映画の宣伝やCM、もちろん英語で、見ている人もみんな外国人。

 当たり前なんだけど、なんか「カッコイー!」という感じ。

 その場にいる自分も、ホント外国に来たという感じがした(その土地の人と同じ事を共有すると、そう思うのかねえ~)。

 そして待ちに待って スターウォーズ が始まった。ジャジャジャ~ン!

 ここはカナダ。分かっちゃいるんだけど、目で探しちゃうんだよねえ~。

 字幕!

 たぶん二秒間ぐらい、僕の目はスクリーンの右隅と下の方をウロチョロしていた。やんなっちゃうよね。

 途中半分ぐらいのとこで、いつもはトイレがあまり近くない僕なのに、急に行きたくなった。やっぱりTの助言は聞くべきだった。

 あのコーラは多すぎるよ。カナダ人はよく、こんなの飲んでトイレ行きたくならないもんだ。

 映画自体は、あらすじは大体は分かったんだけど(まあ、前のスターウォーズ全部見てたからな~)英語はさっぱりだった。

 まわりのカナディアンが笑ったりするんだけど、何がおかしいのか全然わかんない。

 みんなと合わせて笑ってはいたけども......。

 それでも僕は、日本ではそんなに映画館に足を運んではいなかったんだけど、その後カナダに住んでいた間はかなり映画を見に行っていた。

 とにかく安いのだ!

 新作でも日本円で800円から1000円以内。半年くらい前のちょっと古い映画だと、300円以下で見れる所もある。

 日本の半額以下で見れるのだ、安いよね。日本は高すぎるよ。

 そんな手軽さから、よく一人でも映画館には行った。英語はなかなか難しくて、正直あまり解らないんだけど。

 でも一度だけこっちで日本の見た事があった。たしかカナダの映画祭で何かの賞を取った物だったかな?すごくいい映画だった。

 日本語なのでスクリーンには英語の字幕が出ていた。でも日本人しか分からない様な微妙な冗談はなかなか英語では伝わりにくい。

 その時ばかりは、いつもの逆で日本人の僕だけが分かりクスクスと笑い、まわりのカナディアンは「良く分からないなあ~」という顔をしていた。

「今までの仕返しだ!?ざまあみろ!」という感じ。

 ちょっと優越感にひたれたのである。

 

 安く映画を見れたり、映画祭があったりするだけではなく、ここトロントはちょっとした映画産業の街でもある。

 日曜日になるとダウンタウンでよく映画の撮影がある。

 道路を通行止めにし、沢山の撮影機材を積んだデカいトラックが道を占拠する。高層ビルが建ち並ぶビジネス街をニューヨークの街と見立てるのだ。

 ストリートには、ニューヨーク名物イエローキャブが何十台と停まり、地下鉄の駅名は ”フィフスアベニュー・53ストリート” と様変わり。新聞の販売機もトロントスターからUSAトゥデーに替えられる。

 ニューヨークを舞台にしたり、その街並みを使う映画は数多くあるけど、その殆どが実際にはニューヨークでは撮影されないらしい。

 なぜなら、道を通行止めにしたりする費用が、ニューヨークではすごく高いらしいのだ。だからわざわざ安く出来るカナダまで来て撮影する。

 トロントの街はニューヨークと同じ碁盤の目で、高層ビルも多い。この街を使ったニューヨークの映画はかなりあるという事だ。

 でも見てる人はなかなか、わかんないんだろう。

 たしかに日本に帰って来てから、テレビでニューヨークを舞台にした有名な映画を見ていて、ここ絶対トロントじゃん!というのはあったね。ホントの話!