夏はやっぱりフェスティバル(2)
モントリオールを諦めていたその頃、トロントでもジャズフェスティバルがある事を知った。
世界的に見ればあまり知名度はないジャズフェスではあったけど、結構有名なミュージシャンも来ていた。
日本の同じ様なフェスティバルと違い、こっちでは10日間ぐらいいろいろな場所で行われる。値段も手頃で、世界的に有名なジャズシンガー、アーネスティ・アンダーソンのライブは35ドル(当時約2800円)。無料の野外ライブやストリートライブも何か所でもやっていた。
ジャズフェスと言ってもジャズだけでは無く、ブルース、ソウル、ロック、ラテン系など様々な音楽が街のあちこちで聞こえてきた。
僕もパンフレット片手にいろいろな会場やライブハウスに足を運んだ。友達で音楽が好きな奴はあまりいなかったので、こんなに英語が喋れない僕なんだけど、好きこそ物の何とかで、結構一人でデカいカナダ人の中に入って音楽を聴いた。
でも正直言って一人はやっぱり寂しいもんである。
英語もろくに喋れないし、日本人だし・・・。
演奏最中はいいのである。問題は休憩時間だ。みんなそれぞれ今のステージの話しをしたり、恋人同士はいちゃいちゃしたり、常連の客は互いに仲良くしている。
僕はと言うと、一人寂しく酒を飲むしかないのである。
日記をつけたりもしてみたが、あまり面白いとは言えない(今ならスマホがあるから暇つぶし出来るよね~でもその当時はそんなのなくてね)。
日本だったら、カウンターで隣に座った人と割りと気軽に話しかけられる性格なんだけど、英語力が乏しい僕はここでは、話しかけても長続きはしない。
それでも時々たまには楽しい休憩時間もあった。
ある夜、シカゴの有名なブルースハープのミュージシャンが出演するという店に一人で行った。
初めて入るその店は、いかにもブルースやってるぞー!というちょっと不良っぽい店で、客もTシャツから出たタトゥー入りのぶっとい腕を振り回すハルク・ホーガンの様なデカイ白人だらけだった。
僕なんてちんけなアジアン小僧だ。
でも音楽はさすが本場のシカゴブルース。無茶苦茶カッコイイんだなあ、これが!
「イエ~イ、ピーピー!」
前半のステージが終わり、休憩時間になった。
僕はいつもの様に一人で余韻に浸りながら、酒を飲んでいた。
隣に、昔良くテレビに出ていたチャック・ウイルソンの様な三人組のおじさんが、
ワイワイガヤガヤと楽しそうに飲んでいた。
少しするとその中の一人のおじさんが酒の勢いも借りて、この細いアジアン小僧に話しかけてきた。
「......そうか日本から来たのか。カナダはどうだ?いい国だろ?」
「うんそうだね、こんないい音楽を安くいっぱい聴けるし、カナダ人は優しいし......」
「そうか、そうか」
どこの国の人間も自分の国を良く言われると、やっぱり嬉しいもんである。
その後もいろいろな話しになった(よく解らない所もいっぱいあったけど)。
僕は仕事が見つからない事、こんな英語力では雇ってくれる人がいない事などをペラペラ(ペラペラではないんだなあ、これが)と話してしまった。
彼にとっては僕の事なんてどうでもいい事であり、酒の席での暇つぶし程度にしか思っていないのは十分わかってはいたんだけど、人恋しさもありつい話してしまった。
後半のステージも終わり、チャック三人組は僕の事なんて構わずカナディアンビールをガブガブ飲み盛り上がっていた。
僕は再び孤独になり、さて帰ろうと席を立った時、さっき話してたおじさんが僕を呼び止め言った。
「よーお前、グットラック!」
外国でのそういう一言は、ホントちからになるんだよね。
ありがとう、チャックおじさん。がんばるよ!
レゲエのライブが、歩行者天国にしたメインストリートでやっていた。ブラスバンドも入ってて結構いけてる。
人が道から溢れんばかりにいて、真夏のいい夜といった感じ。
黒人の太ったお母さんが子供にせがまれて、二人の小さな子を抱きかかえている。すごく重そうなんだけど、腰は音楽にのってスイングしていた。
いつもは、面白くなさそうな顔して道端に座っているホームレスも、この時ばかりはみんなと一緒に楽しく踊っていた。けど手にはしっかりと恵みの金を入れるための紙コップは忘れずに握りしめて。
この雰囲気最高!何かが日本と違うんだよね。多分ほんのちょっとの差なんじゃないのかなあ。素直さかな?
この街には、世界各地からやって来た移民達のその国、宗教のパレードや、クリスマスのサンタクロースのパレード等、いろいろなパレードを見る事が出来る。
その中でも一番ド派手で、ある意味一番有名なパレードがある。
それはゲイパレードである。
初夏の時期に数日間に渡って、一万人以上のゲイやレズビアンの人達が集まるフェスティバルが行われる。このフェスティバルはニューヨークやサンフランシスコと並び、世界でも最大級らしい。
カナダでは、同性愛者の市民権がかなり確立されていて、街を歩いていても、若いのからおじいちゃん同志まで、老若男女?の同性愛者の人達が手をつないで、沢山歩いている。
同性愛者を意味する虹色の旗を車に付けたり、家の前にその旗を掲げている人までもいる。初めは正直びっくりしたが、カナダはそれだけ開かれた国なのである。
ちょっと怖い物見たさで、友達とゲイフェスティバルに行った。
一本のストリートとその周辺を完全に封鎖して、ジャズフェスと同じ様に街をあげてのフェスティバルだった。協賛も航空会社やビール会社、日本のNTTの様な電話会社などが揃っていた。さすが市民権を得ている、日本とは良くも悪くも大違いだ。
周辺は凄い何とも言えない熱気だった。
僕が見に行った日はゲイの日。その次の日はレズビアンの日だった。
上半身裸や短パン一丁のマッチョな男達が、その通りを埋め尽くしていた。そして何故かキャーキャー悲鳴をあげながら水鉄砲で、お互い水をかけ合っているのである。
見物人達もその水攻めに合い、みんなビショビショだ。
ステージでは、ゲイによるゲイのためのライブが行われていて、その筋の人達は盛り上がって一緒に踊っている。抱き合っている者もいれば、人目も気にせずキスしている者もいる。もうグチャグチャ状態だ!
さすがに僕は怖くて、そのステージには近付けなかった。ホントの話し、身の危険!?を感じてしまった。
幸い僕は、女の子の友達二人と来ていたので良かったが、男だけで、特に二人だけでは、来てはいけないなあと思った。あの状況の中での男二人連れは、誰が見てもカップルに見えてしまう。その筋の人達に話しかけられてしまう。
このフェスティバルの正しい見物の仕方は、必ず女性を連れて行くべきである!
でもあそこまでオープンにやられると、気持ちいいもんである。さすが外国だよね、みんな明るいよ。