行けたんだ! カナダ!!

~三十路兄ちゃんのカナダ生活日記~

ホットドック(1)

 アメリカやカナダは、ヨーロッパの様にそれぞれを代表する料理という物がほとんどない。二つの国とも、もともといろいろな国から集まった移民によって出来た新しい国なので、伝統料理は存在しないのだ。

 しかしその中でもアメリカの食文化で一番代表的な食べ物、それはホットドックだろう。

 僕達の世代はそうでもないだろうけど、少し前の世代の人達は、ホットドックと言えば映画で見た憧れのアメリカを思うんじゃないのかなあ。

 そのホットドックはもちろんカナダにもある。

 街のあちこちに屋台があり、小さな子供から会社員、杖をついたおばあちゃんまでいろいろな人が買って食べている。 

 僕も大変お世話になった(とくに貧乏な時)。

 店や種類によって値段も違うんだけど、だいたい1ドルから3ドル(当時1カナダドル80円くらいだったかなあ)ぐらいだ。たまに2ドルでポップ付き(ジュースのこと)という所もあり、見つけるととても嬉しい(わざわざその屋台まで買いに行ったり)。

 うまい英語で頼む人もいるけど、僕は単純明快な "One hot dog please!" だった。hotの発音はホットではなくハットとホットの間ぐらいかなあ(たぶん)。

 パンに、焼いた長いソーセージを挟んでくれる。

 店によっては、パンも少し焼いて暖かくしてくれる所もある。それに粉チーズやピクルス、ピーマン、タマネギ等の具を自分で好きなだけ入れて、最後にケチャップとマスタードをかけて出来上がり。

 気のいいおじさんは、"Have a good day!"(いい日でね!)と言ってくれるので、"You too !"(あなたもネ!)と言い返す。

 

 僕はこの二つの言葉がすごく好きだ!

 悩んでいたり元気がない時に、この言葉を聞くと、少しだけ元気になれる。もちろん、ホットドック屋だけじゃなくて、スーパーや銀行の窓口、人に道を尋ねた時など、あらゆる場面で人と別れる時交わされる。 

 店で物を買った時、店員は「ありがとうございます!」と言う。でもお客さんの方も「ありがとう!」と言う。そして「いい日でね!」「あなたもね!」とお互い言い合う。

 お客が上で、店員が下だという事がいい意味でない。

 それぞれ同じ人間として、”今日一日楽しく過ごそうよ!”という意味がこの言葉にはあると思う。

 なんか、あったかくて いいんだよね~。

 

 カナダに着いて間もない頃、まだ友達もいない僕は、一人ぼっちで良く街をブラブラしていた。

 ある天気のいい日、その日はオンタリオ湖畔を歩いていた。

 海の様に真っ青で、広大なオンタリオ湖を望むハーバーフロントは、沢山のカップルや世界中から来た観光客で賑わっていた。

 異国の地で一人の僕は、なんかとてつもなく寂しくなり、人々が沢山いる場所から離れたくて、湖沿いをどんどん歩いて行った。

 三十分程歩くと観光客は誰一人居なくなり、道を歩く人もまばらになった。

 湖には二隻のヨットが繋がれていて、のどかで、いい感じだ。少し腹が減ってきた僕は店を探すが、そんな所なのでなかなか見当たらない。

 ふと湖の方に目をやると、湖沿いに伸びている道の脇に、ホットドックの屋台がある。

 その店の店主は人懐っこい南米系の奴で、ノリのいいラテンの音楽をラジカセでかけていた。

 僕はホットドックとコーラを買い、屋台の直ぐ隣にあったベンチに腰掛け、オンタリオ湖を見ながら食べていた。

「どこから来た?」暇な彼は話しかけてきた。

「ジャパン、知ってる?」奴はウンウンとうなずいてはいたが、絶対知らないなと思った。

 彼の国も聞いたが良く分からなかった。お互い様だ。

「今日は、忙しいの?」この場所でそんな訳ないんだろうけど、一応社交辞令で聞いてみた。

「ここは、駄目だね、でもあんたが買ってくれたから、もういいんだ。そんなに忙しく働きたくもないし」

「ここは、好きな音楽をデッカクかけれるからいい場所だよ!」(たぶん、こんな事を言っていた) 

 僕もそうだね~。と言った

 のどかな風景と気持ちのいい天気、それと奴の言葉とラテンの音楽が一体化して、ほのぼの~とした感じになった。

 帰ろうと手を振ると、奴が言った、

「Have a good day !」

 僕も言った。

「You too !」