行けたんだ! カナダ!!

~三十路兄ちゃんのカナダ生活日記~

行けたんだニューヨーク(2)

 朝方、目を覚まし窓から外を見ると、遥か遠くの方にあの摩天楼が淡く見えて来た。

 ニューヨークだ!! 子供の頃からの、あの憧れの街ニューヨーク。

「また会えた、5年ぶりに帰ってきたよ!」そんな気持ちだった。

 バスは世界の中心ニューヨークへ向かって、まるで吸い込まれるかの様にマンハッタンへ入る橋を渡って行った。

 

 その日は午前中、全員での観光ツアーだ。小さなブライアン(彼は130センチくらいの身長なのだが声は人一倍でかく、面倒見のいい兄貴肌のちょっとビリー・ジョエル似のカナダ人だった)に続き数十人の世界のお上りさんが、ぞろぞろとニューヨークの街中を歩いた。

 ブライアンは時々みんなを集めて建物の説明や、ニューヨークの歴史を話してくれて、みんなは結構「へえ~」とか言って聞いていたが、悲しいかな僕はほとんど理解出来なかった。

 その後希望者は「✖✖ツアー」「**ツアー」に参加出来るのだが、僕は二回目だし、小学生の頃からニューヨークおたくで、大体の地理は把握していたので、Mちゃんと自由行動をとる事にした。

 マンハッタン島を地下鉄に乗ったり、歩いたりしながら、前回行けなかった場所に行った。

 グランド・セントラル駅クライスラービルタイムズスクエアー......。

 ニューヨークで当時一番高いビルはワールド・トレード・センタービル。420メートル、110階建て。前回二番目に高いエンパイア・ステートビルには上ったので、今回はこっちに上ろうと思った。

 屋上まで行き、街を見た。人々はありんこ、車はミニカーだ。全てがおもちゃの様に見える。まるでちょっとした山から街を見下ろしている様な物だ。

 そのニューヨークで一番の高いビルから、世界一の街を見て、

「よーし、カナダでがんばるぞー!英語がんばるぞー!」と自分に気合を入れたものだった。

 けどまさか、このビルがこの世から消えるとは、その時は思ってもみなかった。

 忘れもしない2001年9月11日、ワールド・トレード・センターは崩壊した。世界で一番大好きな街、そして自分が上ってその屋上でパワーをもらったビル。本当に本当にショックだった。 

 

 ニューヨークで人に尋ねたり、地下鉄の駅で駅員に聞いたり、ニューヨーカーと少しは話しはしたが、カナダと違って人々がちょっと冷たいなあという感じがした。

 トロントでは道を聞いても、笑顔でいろいろ親切に教えてくれる。しかしここニューヨークでは違う。みんな自分の事で精一杯。

「お前のことなんて、しらね~よ!!」という雰囲気がある。正直ショックだった。というより、本当のニューヨークを少し思い知らされたんだろう。

 前回日本から来た時は、行く所も前もって決まっていたし、ほとんど常に団体で、ガイドの人が通訳してくれるという旅だったけど、今回は着いてから自分で行く所を決め、勝手に行動していた。だから英語を話す事も多くならざろう得なかった。

 自分の口で自分の言葉で話し、自分の足で行動しなければ、その土地を本当の意味では理解した事にはならないんじゃないかなあ。

 その後はソーホーやグリニッジビレッジなどを歩き、ホテルに戻った。

 

 夜、好きなサックス奏者が近くのジャズクラブに出てると情報誌で見て、どうしても行きたくなり、再び僕は一人でホテルを抜け出した。

 ホテルから何とか歩いて行ける距離だろうと思い暫く歩いた。しかし目指す店は一向に見つからず、暗い道に迷い込んでしまった。倉庫群の様なところで、

「よく、映画ではこういう所でギャング同士が撃ち合いをするんだよなあ~」とのんきに考えていたら、前から4,5人の不良っぽいデカイ黒人が歩いて来た。

「やばい!」と思い僕は、いかにも道を間違えた様な素振りをして、すかさず回れ右をし、横道にそれた。

 奴等もしかして銃を持っていたかも知れないし、用心に越したことはない(考え過ぎか?)。

 いやあ~やっぱりニューヨークは怖い......。

 ちょうど横道にそれた所にその店はあった。

 トロントでもそうなんだけど、ジャズクラブという物は、少々治安の悪い所にあるもんである。でもそういう所に一流のミュージシャンが来ていたりするもんだ。

 店に入ると既に結構混んでいた。僕はカウンターに座って、ハイネケンを頼んだ。

 ステージが始まった。久々に楽しいジャズを聴いた感じがした。お客さんもまたいいんだなあ~、これが。黒人白人入り混じって、ノリがいいのである(アジア人は僕一人)。

 ピーピー、キャーキャー、イエーイイエーイ!!

 休憩時間に、僕の隣に座っていた アメリカの母” の様な太った黒人のおばさんが話しかけてきた。

「あんた、どこから来たの?」

「カナダのトロント。でも最近日本から来たばっかりなんです」

「カナダか、いい国だね~。ニューヨークは好きかい?」

「大好きです! いつか住みたいと思う。でもちょっと怖いなあと思う所もあるよね」

 おばさんは、少しさみしそうな顔をしたが、直ぐに僕の目を真っ直ぐに見て笑顔で言った。

「ニューヨークは、最高な街だよ。怖くなんかない。あたしも大好きだ、いい音楽もいっぱいあるしね」

「明日この街を歩く時、俺はニューヨーカーだと思って胸を張って歩いてごらん、その時からあなたも立派なニューヨーカーになれるから!」

「そうだね。ありがとう!」

 その アメリカの母” から、ニューヨークから、おっきなパワーをもらった様な気がした。

 よっしゃー!!